言語と思考
言語によって思考や認知、世界の捉え方は異なるのか。この問いを扱う仮説に、サピア=ウォーフの仮説や言語相対論が存在する。僕たちは生まれる場所を選べない。生まれ落ちた場所の言語を学び、文化に触れ、その場所の世界認識の方法を獲得していく。その人を形成する世界観が形成されていく。誰も言語によって世界認識の方法が異なること、形成される世界観が異なることは教えてくれない。言語は思考を最適化して生まれたものではない。長い歴史の中で進化してきた結果である。人間の思考や認知をより豊かにし、効率的にするための 「理想的な言語」 を作ることは可能か? この問いに近い探求をした人物が、「完全言語の探求」を世に放ったウンベルト・エーコである。
言語設計
言語の設計上の課題としては、まず論理と情緒の両立が挙げられる。論理的に完璧な言語は人間が直感的に理解しにくく文化的背景や感情のニュアンスを捨ててしまう可能性がある。次に、多様な認知スタイルへの対応が挙げられる。人間の思考スタイルや認知は多様であり、抽象的な思考を得意とする人もいれば、視覚的なイメージを重視する人もいる。単一の「完全な言語」では、こうした個々の認知スタイルに対応するのが難しい。理想的な特徴を持つ言語の要素としては最低限以下の特徴が求められるだろう。
- 論理的で一貫した文法:あいまいさがなく、明確な意味を伝えられる。
- 簡潔さと効率性:短い表現で複雑な概念を伝達可能。
- 直感的な記号体系:シンボルやイメージを活用し、人間の認知に直接訴える。
- 拡張可能性:新しい概念や技術に対応し、柔軟に進化できる。
- 感情やニュアンスを表現できる構造:単なる情報伝達にとどまらず、人間の情緒や文化的背景も反映。
人工言語
過去にいくつかの人工言語が思考を最適化する目的で設計されてきた。人工言語の試みと限界を俯瞰しておく。
- エスペラント:異なる言語を話す人々の相互理解を促進するために作られた。学びやすさと簡潔さに重点を置いているが、文化・風土・語法といった要素が欠けている。
- ロジバン:論理的な構造を持ち、あいまいさを排除することを目的としてる。地球上で最も多く話されている6つの言語(中国語、スペイン語、英語、ヒンディー語、ロシア語、アラビア語)から採取した単語をコンピュータで融合することでロジバンの約1300の基本単語が作られた*1。 しかし、日常的な会話での使用は難しそうだ。
- プログラミング言語:コンピュータに対して明確で誤解のない命令を与えるための言語。これらは人間の感情表現には適していない。
最後に
言語によって思考や認知が異なるのかという疑問から思考を最適化する人工言語までみてみた。言語は単なる論理的な道具ではい。感情、文化、社会性を持った複雑な現象であり、人間という受け手がいて初めて意味を持つ柔らかい現象である。このことが思考を言語として外部化することを困難にしている。完全な普遍言語を作るのは難しいかもしれないが、人間の思考を補完し、拡張するための新しい言語やその言語を支援するシステムなら作れるかもしれない。一つ可能性を感じているのがオノマトペを応用した言語開発である。擬音語・擬態語ましまし大阪イズムを完全言語にリミックスしたい。