「#33 感覚とリンクする言語の可能性」で「オノマトペ的な記号を設計し直接感覚にアクセスできるようにすることで意味理解が容易になる言語が構築できるのではないか」と考察した。直接感覚にアクセスできる記号が実はみじかにあるこに気づいた。漢字である。漢字は表意文字である(漢字は意味だけでなく音も表すことから「表語文字」と言われることもある)。表意文字は一字一字が意味を担う文字であり、古代文明における象形文字の影響が色濃く残ったものである。象形文字は、ものの形をかたどって描かれた文字からなる文字体系で、これはまさに現代版の絵文字である。「絵文字」は伝えたい情報を絵に変換したものなので視覚的にその情報に直接アクセスすることができる。記号(絵文字)〜意味(絵文字が表すオブジェクト)の接地が可能になる。
今から人間が記号を生み出す物語を妄想する。人間は記号による情報伝達をするときにまず伝えたいオブジェクトの絵を描いた。絵という加工情報が人々の間で共有されそれが記号として定着し、地方ごとに異なる記号の統一が起こった。記号から実物のオブジェクトへの連想を行い、記号とそれが表すオブジェクトとの接地を行った。しかし、象形文字が漢字になるにつれて漢字が複雑化し漢字という記号とオブジェクトの設置が難しくなり、機械的な暗記に頼るようになった。白川静のような漢字学者でない限り私たちは日常を生きる中で漢字の語源を気にしない。気にしなくても生きていける。そうこうしているうちに生成AIが登場し、記号接地問題が再度叫ばれるようになる。そして私はこのブログを書いている。私の主観になるが、白川静さんは漢字を「へん」「つくり」「かんむり」「あし」などの構成要素に分解し、各々の字形から意味を引き出す。このアルゴリズムは非常に興味深い。どんな複雑な漢字も部分要素の総体で成り立っており、その部分要素を形として計測し、その形が持つ意味を意味データベースに照会して意味を取得する。他の部分要素から取得できた意味をまとめその漢字の意味を推測する。さらに漢字と漢字の意味とまとめ熟語の意味を理解する。漢字の世界観を学習すれば漢字に畳み込まれている意味を引き出すことができる。もちろん、漢字の分類法には「六書」があり、象形、指事、会意、形声、転注、仮借の6つに分類され、象形文字はその一つに過ぎない。ただ、漢字という文字体系にはアルファベットでは決して成し得ない何かを成し得る可能性を感じていて、その何かとは記号接地問題が抱える記号と意味の接続である。漢字に畳み込まれた意味の解読は記号と意味の接地方法の解読につながる。そしてその解読には間違いなく「身体性」という鍵概念を使いこなす必要が出てくる。私は漢字についてまだ何も知らない。