斜めダンディズム

日常に補助線を。

#43 記号以前

 記号以前の情報、記号として結晶化する前の捉えどころのない情報とは、形を持たず、言葉や記号で表現される以前の感覚的・感情的・知覚的な「未分化な情報」である。未分化な情報には、

  • 温度や質感、動きなど、言語化される前に身体が直接感じ取るもの
  • 言葉で表現できない微妙な感情の変化や、心のざわめきなど心が感じ取るもの
  • 目に見える形や音がまだ「意味」として認識されていない状態

がある。このような未分化な情報には記号としてラベルを貼ることで認識のスピードを上げることができるが、現象から新たな意味を引き出すことができなくなる。特にエモいなどの記号は対象が広いので表現の解像度が低下する。記号を解凍し意味以前、記号以前の情報に変換しないと新しい新しい概念を創造することはできない。

 漢字制作者はどのようにして漢字を生み出したのだろうか。どのようなことを考えて漢字体系を構想したのだろうか。漢字制作者の世界の捉え方を妄想してみる。まず、自然界のすべてのものや現象には意味や役割がありそれを象徴化できると考えたに違いない。その考えがベースとなって、自然と人間の関係性を認識しそれを視覚的に記号化する試みが生まれた。そこには鋭い観察眼と記号化力があった。次に象形文字として生まれた漢字を抽象化した。「心」→「思」「念」「意」など、具体的な臓器から抽象的な精神活動への拡張したり、「目」→「見る」「看る」「観る」など、視覚行為に関するさまざまな意味を派生させたりと凄まじい抽象化力があった。また、漢字を作るということは世界を再構成するということであった。六書(象形、指事、会意、形声、転注、仮借)に代表されるような文字の作り方や使い方の分類が生まれた。そこには圧倒的な体系化力があった。